染め上げられた後、糊を落とす “川”
職人さんが見習いで初めて入る現場はこの洗い場。
当然、一年中、水。見るからに冷たそう。
どんな世界も新人さんには試練が待っているということだろうか。
野球のボール拾い、レストランの皿洗い、修行僧の雑巾がけ、丁稚の使いっ走り?
さて、それでは新人イラストレーターの試練はなんだろう。
…仕事がない。
と、自分で言って恐くなる。そんなの新人関係ない。
いや手こそ冷たくないけど実際苦しいもんですよ。ねえ〜そこのあなた。
しかし、試練はその試練を越えられる者にしか訪れないのだ!
などと話が逸れているうちにもう洗い上がり。
さっき置いた糊をもう落としてしまうという印象。待ったなし。
ここで手早くやらないと染めが移ってしまう。
川下で待っていると手ぬぐいが流れてくる。
手に取って見せてもらい、美しさに息をのむ。
そして“伊達干し”。
7〜8メートルの高い天井に吊られ、光を浴び、長い長い手ぬぐいが風に揺れる。感嘆。
よく見たら天井の端から端まで渡してある長い棒は、木だ。
落ちた人はいないということだが、登ってみたいとは思えない。
長い梯子を駆け上がり、軽々と渡る職人さんは「馴れですよ」と笑う。
染めを見ている時の色についての疑問が、乾いたら消えた。
思った以上にイメージに近い。まるで魔法だ。
すごいっすね!
と職人さんの肩をばんばん叩きたい気分だが耐えた。
そういったことは、絵描きに「絵うまいっすね!」と言うのときっと同じだろう。
黙って試作を首に巻くなりゆきサーカスである。(おしゃれ!)
(つづく)
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